妄想と愛が香り立つ大人のファンタジー!
ストーリー:フランス西部ノルマンディー地方、美しい田園風景が広がる小さな村。パリで12年間出版社に勤務した後、平穏で静かな生活を求めて故郷に戻り、稼業のパン屋を継いだマルタン(ファブリス・ルキーニ)。毎日の単調な生活の中で文学だけが想像の友、とりわけボロボロになるまで読みふけっているのは、ここノルマンディーを舞台にしたフローベールの『ボヴァリー夫人』だった。そんなある日、向かいにイギリス人夫妻、その名もジェマ(ジェマ・アータートン)とチャーリー・ボヴァリー(ジェイソン・フレミング)が越してくる! マルタンはこの思わぬ偶然に驚き、小説さながらに行動する奔放なジェマから目が離せなくなってしまう。一方ジェマもマルタンの作る、やさしくて芳醇な香りのパンに魅せられていく。ボヴァリー夫妻と親交を深めるうちにマルタンの好奇心は、単なる文学好きの域を超え、ジェマを想いながらパンをこね、小説と現実が入り交じった妄想が膨らんでいく。しかし、『ボヴァリー夫人』を読んだこともないジェマは勝手に自分の人生を生きようとする・・・。
出演:ファブリス・ルキーニ、ジェマ・アータートン、ジェイソン・フレミング、ニールス・シュナイダー、メル・レイド、イザベル・カンドリエ、エルザ・ジルベルスタイン、ケイシー・モッテ・クライン
★★★★★ エスプリのきいた悲喜劇、ラストシーンは特に秀逸
撮影開始直前に、アンヌ・フォンテーヌ監督は膝を負傷し、やむを得ず車椅子から指示を出し、演技指導を行ったとのこと。余分な力が抜けたからか、軽妙洒脱な仕上がりになっている。この映画の原題はGemma Bovery(ジェマ・ボヴァリー)。イギリスの絵本作家Posy Simmonds(ポージー・シモンズ)の同名のグラフィックノヴェルを映画化したものである。ノルマンディー地方の、時代から置き去りにされたような美しい村で起きた不倫劇。そのてん末を当事者ジェマの日記と、マルタン・ジュベールの回想から描き出している。パリで学術書の出版に携わっていたマルタンは、7年前、ストレスだらけの都会生活に別れを告げ、故郷に戻り、父親のパン屋を継いだ。世話好きで、愛読書はフローベールのMadame Bovary(ボヴァリー夫人)。向かいの古びた空き家にイギリス人の若夫婦が引っ越してくる。ジェマ・ボヴァリーと夫のチャールズ(チャーリー)だ。ジェマの何気ない仕草、うっとりした表情でパンのにおいをかいだりするのを見て、マルタンの10年間眠っていた性欲中枢は刺激をうける。ジェマ役のジェマ・アータートンはそばかすだらけだが、フェロモンが匂い立つような、肉感的なボディ―を持ったイギリスの女優。不倫に走る若妻役は彼女にぴったり、持ち味が生きている。ジェマは、司法試験の受験勉強でシャトーに滞在中のエルヴェと密会を重ねる。2人の不倫を目撃したマルタンは、小説ヒロインと同名の彼女のことが心配で堪らず、おせっかいを焼き始め・・・。マルタン役ファブリス・ルキーニの完璧な演技は見もの。脇役陣も魅力的な顔ぶれがそろっている。その場を明るく華やいだ雰囲気にする社交家でスノッブなウイジーを演じたエルザ・ジルベルスタイン、男の哀愁を感じさせるチャーリー役のジェーソン・フレミングなどの、コミックから抜け出たような、個性的な顔立ちの俳優が続々登場する。それにキュートな犬たち。練りに練った才気あふれる脚本で、不倫劇の思いがけない結末はしんみりさせるが、ラストシーンは腹の底から笑えて、鑑賞後、楽しい気分になれた。
★★★★☆ ボヴァリー夫人はパン屋
思わずプッと吹き出したりクスッと笑ったり、ニヤッとしてしまう、皮肉の効いたストーリーにやられました。パン屋は隣に越して来た奥さんを勝手にボヴァリー夫人に見立てていますが、本当のボヴァリー夫人はパン屋自身。都会から帰って来た彼こそ、誰より田舎暮らしに退屈しながら何かが起こるのを待っている人物です。『家政婦は見た』を思い切り小洒落たフランス映画にしたらこんな感じ?とも思いましたが、彼の場合は家政婦と違い好奇心とお節介よりも下心。いそうでいない、手が届きそうで届かない、絶妙な隣の奥さんのボディーラインを喰い入るように眺める初老のパン屋。心配だ、美しい、とか言うのはいかにも言い訳で、最後のパンなんて気味の悪いストーカーからの贈り物。でもちやほやされるのは嫌いじゃないから食べてしまう、欲望に正直でちょっと欲張りな隣の奥さん。パン屋の舐めるような視線と妄想が全体をエロスで包んでいます。小説の『ボヴァリー夫人』では、夫人の夫シャルルが妻の表面的な変化にしか気づかず、彼女の本音や本質を見ようともしない態度に腹が立ちました。しかし、この作品の本当のボヴァリー夫人であるパン屋には超現実主義の奥様がついていて、彼を理解し、泳がせながらもしっかり見張っています。だからこそ彼は破滅の心配をしないで今日も何かが起こることを期待して生きていける、そういうラストがリアルだし素敵。ちなみに不倫相手の青年ですが、小説の中の不倫相手レオンの私が抱くイメージにあまりにピッタリでした。
★★★☆☆ フローベールの「ボヴァリー夫人」になぞらえた物語
インテリなパン屋の妄想と現実。官能小説(映画化もされている)「ボヴァリー夫人」と隣人のボヴァリー夫妻の夫人ジェマに物語をだぶらせる。現実のジェマと物語のエマが主人公の中で、一体化して当初は興味津々であったが、やがて彼女の行く末が物語の結末通りになるのではと心配になってゆく。主人公の台詞、モノローグが詩的なのが彼の性格を上手く表している。フランスの片田舎の、のどかで退屈な街を物語の背景にうまく使っていると感じた。終盤、ジェマの間抜けな死に方とエンドロールでこの映画は実はコメディとしてつくられたのだなと感じ、脚本、演出の巧みさに感心した。
作品の詳細
作品名:ボヴァリー夫人とパン屋 |
原作名:Gemma Bovery |
監督:アンヌ・フォンテーヌ |
脚本:パスカル・ボニゼール |
公開:フランス 2014年9月10日 |
上映時間:99分 |
制作国:フランス |
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