クジラが導いたニュージーランドの勇者伝説
ストーリー:ニュージーランドの小さな浜辺の村。祖先の勇者パイケア(ケイシャ・キャッスル=ヒューズ)がクジラに導かれこの地へ辿り着いたという伝説を語り継ぐマオリ族。彼らは代々男を族長として村を守り続けてきた。ある時、族長の長男ポロランギ(クリフ・カーティス)は双子の男女を授かるが、不幸にも男の子と母親は出産時に命を落としてしまう。ポロランギは悲しみに暮れ、一人娘を残して村を去る。パイケアと名付けられた娘は、祖父母のもとで育てられる。パイケアが12歳になった時、村では彼女と同年代の少年たちが集められ後継者育成の訓練が始まる。しかし、女であるパイケアはその訓練への参加を許されなかった・・・。
出演:ケイシャ・キャッスル=ヒューズ、ラウィリ・パラテーン、ヴィッキー・ホートン、クリフ・カーティス、グラント・ロア、マナ・タウマウヌ、レイチェル・ハウス、タウンガロア・エミール
★★★★★ 伝統と近代化を融合させるために苦闘する幼い改革者を描いた民族劇
今までニュージーランドの映画など見たことがないので、異色の内容を想像しましたが、実際の内容は日本人の私でも違和感なく共感できるものでした。伝統と近代化の狭間で揺れ動くマオリ族の描写は、世界中の人達が共感できる要素を持っています。村を出て自分の可能性を見出したい父親と、村の伝統を守りたい祖父の間で苦悩する主人公の少女の姿は、多くの人々の心を揺さぶります。呆れるほど頑迷な祖父の姿は、シアトルで暴動を引き起こした反グローバル主義者や、北朝鮮との関係を絶対に断ち切らない在日朝鮮人の姿を彷彿とさせます。私自身日本の伝統や文化を尊重し、守り抜くべきだと考えますが、本来伝統や文化は、独善的な頑迷さを元に、女性や次男を後継者や学びの場から排除する物ではない。日本の伝統が中国や西洋の文化を少しずつ取り入れ変化したように、世界各国の伝統も、グローバル化の中で少しずつ変形することは避けられません。しかし本作の祖父のように、閉鎖的な共同体を形成し、頑なに外の文化を拒む人々は、世界中に意外にも多い。世界初の女性参政権が認められ、現首相のヘレン・クラークを始め数多くの女性が社会進出を遂げるニュージーランドで頑迷な民族主義を貫くこの祖父の姿は、ヨーロッパのイスラム原理主義者といい勝負です。伝統を守りたいのは誰でも同じですが、硬直した地域では将来を担う若い頭脳が流出し、閉塞感と停滞を生み出す。今現在世界各国で必要とされるのは、文化や伝統を誕生時の形で永久に保存するのではなく、伝統を改革し、近代化と融合させる指導者でしょう。優れた指導者が現れれば、国を出た人達が戻り、再生に向けて献身し始める。「皆で力を合わせれば明るい未来を築ける」というラストの台詞は、イスラム世界をはじめ停滞した国々が今後取るべき道を探る上で、多くの示唆に富んでいると思います。
★★★★☆ 歴史を受け継ぐ大切さ
歴史を受け継ぐことと新しい歴史を築くこと。人間は長い歴史の中でそのことを繰り返してきた。『クジラの島』では男がその役割を担う。しかし、長老の家に生まれた双子のうち男の子は母親とともに命を落とし、女の子が育っていく。父親は村を去り、少女は長老である祖父の下で歴史を受け入れつつ育っていく。歴史を軽んじる人の中にも歴史は生き続けている。繊細な映像と描写が見事である。そして、少女をはじめ俳優たちが見事である。新しい歴史が始まったラストシーンに胸が熱くなる。
作品の詳細
作品名:クジラの島の少女 |
原作名:Whale Rider |
監督:ニキ・カーロ |
脚本:ニキ・カーロ |
公開:ニュージーランド 2003年1月30日、日本 2003年9月13日 |
上映時間:102分 |
制作国:ニュージーランド、ドイツ |
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