ドラマ

八月の鯨

小さな島のサマー・ハウスで夏を送る老姉妹のささやかな日常生活を描く

ストーリー:海のほとりに建つ質素なサマーハウス。共に夫に先立たれ、それぞれ淋しさを抱える姉妹は、長い人生のほとんどを一緒に過ごしてきた。目の不自由な姉リビー(ベティ・デイヴィス)は気むずかし屋で、面倒見のよい妹セーラ(リリアン・ギッシュ)をしばしば困らせた。それでもそっと二人寄り添い、移りゆく日々を手を取りあって生きている。八月に岬にやってくる鯨の姿を見ることを楽しみに・・・。

出演:ベティ・デイヴィス、リリアン・ギッシュ、ヴィンセント・プライス、アン・サザーン、ハリー・ケリー・Jr、メアリー・スティーンバージェン

視聴者の声【Amazonレビューより】

★★★★★ 人と人が強く連れ添うという際には暴力というものは避けて通れない

鑑賞していて小津映画に似ていると幾度か思った。鑑賞後にネットで調べると、監督が小津映画のファンだったと出ていて納得した。どこが小津映画に似ているのか。まずは風景の切り取り方である。特に、誰もいない家の中を撮る際の、コップや皿等の小物を映す風景が非常に似ている。無人の家の妙に清々しい場面が、そこにいない人たちの心情をさらりと表現している様子だ。そもそも物語の作り方も似ている。小津映画には、ある家庭での小さな出来事をミクロに視点で描きながら、それが次第に大きい風景に展開する腕力がある。それは例えば「東京物語」は世代間の断絶であるし、「晩春」においては親と子の別れであるし、「麦秋」では結婚観の変遷というような整理の仕方が可能である。かつ、そこには必ず「暴力」というものが介在している。しばしば原節子は極めて暴力的に振舞っているといって良い。それが「暴力」に見えないのは、物語の語り口が暴力的ではないからだけである。では本作ではどうか。本作で語られる「小さな出来事」とは姉妹の間の諍いであろう。観ている僕らとしては、盲目の姉の暴力的な言動に驚かされる。但し、姉だけが暴力的とは言えまい。盲目の姉に向かって見晴らしがよい窓の良さを主張する妹も十分に暴力的ではないか。目の不自由な方に眺望を語るということの残酷性というものも考えても良いのだ。若しくは近所に住む50年来の友人はどうか。主人公が住む家を売却すると想像して不動産会社を連れてくるというのも乱暴な話だ。お節介という言葉で済まされないような場面でもあった。端的に言うと、人と人が強く連れ添うという際には暴力というものは避けて通れないということなのかもしれない。若しくは暴力とは一つのコミュニケーションの道具として不可欠であると言い切ってもいいかもしれない。そんな部分が小津映画と本作に共通している。僕はそう思った。八月の鯨は来るのだろうか。もっというと八月の鯨とは何なのか。もしかすると、その鯨こそが彼岸からやってくる死の迎えなのかもしれない。そう考えると、ラストシーンで姉妹が二人並んで水平線を眺める視線の在り方の味わいも変わってくる。そもそも演じた老女優たちが、水平線の向こうに何を観ていたのかを想像するだけでも深みが変わってくるのだ。小津映画が世界で通用する映画だったことが初めて腑に落ちた。

作品の詳細

作品名:八月の鯨
原作名:The Whales of August
監督:リンゼイ・アンダーソン
脚本:デヴィッド・ベリー
公開:1987年10月16日
上映時間:90分
制作国:アメリカ
製作費:300万ドル
興行収入:130万ドル
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